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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1289号 判決 1967年12月13日

理由

一、主たる請求について

《証拠》によると、本件約束手形三通は、周南商事株式会社(以下「訴外会社」という。)が被控訴人に対する商品代金支払いのために振出していた約束手形の支払延期を得るため、その書替手形として振出されたものであることが認められる。しかして、甲第一号証ないし第三号証(本件約束手形)の第一裏書欄には、控訴人名義により、拒絶証書作成義務を免除してなされた譲渡裏書(甲第一号証は被控訴人あて記名式の、甲第二、三号証は白地式の裏書)の記載があり、控訴会社代表者尋問の結果(原審)によれば、右裏書部分にある控訴会社社長の記名印影と名下の印影は、当時の控訴会社代表取締役生野豊の真正な記名ゴム印判と印章により押捺されたものであることが認められるけれども、後記認定事実に照らすときは、右押印が真正に成立したものとは到底認め難い。却つて、《証拠》を総合すると、訴外会社の代表取締役であつた松本幸次は、本件約束手形の書替えに際し被控訴人側から予め控訴人の裏書を経ておくことを要求されていたので、昭和三六年四月下旬頃控訴会社の専務取締役で経営一切を任されていた椿繁美(現代表取締役)に会つて右裏書を貰うべく大阪から山口県下の控訴会社へ赴いたが、到着が夜で、相憎椿専務が不在であつたため、控訴会社の販売担当従業員で椿専務の子の椿俊治に事情を話し、本件手形に裏書をしてくれるよう依頼したところ、同人は控訴人の手形振出し、裏書等を代行するが如き権限を有していなかつたのに、安易にこれを承諾し、金庫内に保管されていた前記の記名ゴム印判と印章を無断で使用して、本件手形の第一裏書欄に所要の押印を施したこと、かくして松本は本件手形を大阪へ持ち帰り、被控訴人に交付したこと、以上の事実が認められる。従つて、本件手形の控訴人名義の裏書部分は、椿俊治の無権代理行為によるものといわざるを得ない。

被控訴人は、椿俊治の右無権代理行為につき民法第一一〇条の表見代理の適用があると主張するので案ずるに、同人が控訴会社の販売担当の従業員であつたことは前認定のとおりであるが、前掲証拠によると、松本は専務の子とはいえ一従業員に過ぎない椿俊治に対し、同人に控訴人の署名代行をする権限があるか否かを確かめることなく裏書を依頼し、その際同人から一旦は裏書を断られていること、松本は翌日椿専務と会うことができたのに、本件手形のことを話題にするのを避け、俊治の所為につき了解を求めようともしなかつたことが認められ、これによれば、松本には俊治に代理権ありと信ずるにつき過失がなかつたものとは言い難い(なお、本件においては松本は被控訴人の代理人として本件手形の裏書を受けたものと見られるから、松本につき右過失の有無を考えるべきである。)。そうすると、被控訴人の表見代理の主張は失当である。

次に、被控訴人は控訴人が本件手形金債務を承認したとして、控訴人が椿俊治の無権代理行為を追認したかの如き主張をしているが、右主張に副う被控訴会社代表者尋問の結果(原審)はたやすく措信できず、却つて控訴会社代表者尋問の結果(原審)によると、椿専務は昭和三六年六月九日被控訴会社の代表取締役宮本嘉代造と会つた際、本件手形の裏書欄の印章が控訴会社のものであることは認めるが、右裏書は俊治が松本に利用されてしたもので、控訴会社としては支払いできない旨告げていることが認められるから、右主張もまた理由がない。

してみると、主たる請求である遡求による手形金請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れないものである。

二、予備的請求について

そこで、進んで民法第七一五条による損害賠償請求について判断する。《証拠》によると、商品代金の支払いを受けるため本件手形を取得した被控訴人は本件手形を各満期日に支払場所において呈示して支払いを求めたが、振出人の訴外会社から支払いを得られず、その後訴外会社は事実上倒産したことが認められ、なお裏書人たる控訴人への遡求もできないことは前記のとおりであつて、被控訴人は、控訴人名義の裏書譲渡を受けたことによつて本件手形金相当の損害を被つたものということができる。

しかして前認定事実によれば、俊治が自己に権限がないのに保管していた控訴会社代表者の印章等を利用して本件手形の裏書をしたのは、少なくとも同人の過失に出たものというべく、《証拠》によると、俊治は訴外会社に対する取引担当者であつたこと、椿専務は自己に差支えがあるとき控訴会社代表者の印章等を俊治に保管させていたこと、俊治は正規の勤務時間外ではあつたが、宿直中であつたことが認められるので、右裏書行為は外形上同人の職務範囲内の行為に属すると見て差支えないから、控訴人は、他に特段の事情がない限り、俊治の使用者としての責任を負担すべきである。

従つて、被控訴人の予備的請求中、控訴人に対し本件手形金の合計額相当の金二五万三、九四一円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明白な昭和三六年一一月一八日から完済に至るまで民事法定利率による年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める部分は正当として認容し、その余の部分は失当として棄却すべきである。

三、結論

以上のとおり、被控訴人の主たる請求は失当として棄却し、予備的請求は右のように一部正当として認容し、その余を棄却すべきであるから、これと異なる原判中の控訴人に関する部分を変更する。

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